前回は『犯罪・刑事ドラマの40年を一気に駆け抜ける!(70年代をナメるなよ)』Part1』

『俺たちの勲章』松田優作と中村雅俊

後に『俺たちの旅』(1975年)で「やさしさ触れあい青春ドラマコンビ」とレッテルを張られるようになった脚本家鎌田敏夫斉藤光正監督の『戦国自衛隊』(1979年)コンビだって、その直前の『俺たちの勲章』(1975年)では、やりきれない刑事物を作り出していた。
 『俺たちの勲章』は、サングラスに革ジャン、マグナム銃の松田優作と、白背広にパンタロンの中村雅俊が、いかにもな凸凹コンビ色を見せるのだが、ドラマ内容は、決して俳優のキャラと個性に依存したライトなものではない。
 彼らは常に孤立させられ、優しいボス的上司も、山さん的先輩刑事もいない職場環境で、あちらこちらへ「上司がどうでもいいと判断した事件」の助っ人として日本各地へ飛ばされるというのが毎回の趣向(企画に旅行読売が絡んでいるためであり、企画時タイトルは『助っ人刑事』)。

 第一話『射殺(監督・澤田幸弘)』では、その直前までの『太陽にほえろ!』で、優作演じるジーパンの恋人だったシンコ役の関根恵子をヒロインに迎え、かつて輪姦事件の被害を受けたが、今は過去を封印している新妻・関根恵子のために、輪姦事件の犯人たちを、今もまだ射殺して回っている関根の過去の恋人を追う話。
 元恋人だった男は優作と雅俊に追い詰められ、自暴自棄になってライフルを乱射するが、それを止めようと、そして一緒に死のうと駆け寄ろうとする関根恵子を救うため、優作は犯人をあえて撃ち殺して、関根恵子が泣き崩れてドラマは幕を閉じる。

 同じ鎌田脚本、澤田監督コンビの『狙撃者を追え!』では、米軍基地街で米兵相手に男婦をやっていた石橋蓮司が、まるで当時アメリカで実際に起きた、ベトナム帰還兵によるテキサスタワー事件のように「今の社会に満足してる奴は、全員敵なんだ」「俺は英雄になりたかったんだ」と、ビルの屋上から民間人をライフルで射殺して回る。

 『雨に消えた…(畑嶺明 斉藤光正)』では、生まれて初めて愛した男を救う金を得るために、強盗の手引きをした美女・五十嵐淳子だが、優作・雅俊の捜査からは逃れられず、逮捕されて夢と愛が儚く消え失せたことを知る。しかし、そこで五十嵐淳子が人生を賭してまで救おうとした男は、ラストでただの金目当ての結婚詐欺師であったことが明かされる。

 その『俺たちの勲章』の直前『傷だらけの天使』(1974年)で鮮烈さをアピールした俊英俳優・水谷豊が、タイアップ先の鹿児島で『俺たちの勲章』にゲストとして出演した『孤独な殺し屋(鎌田敏夫 山本迪夫)』
 千枚通しを相手の心臓目掛けて投げ刺し殺す、百発百中の腕前の殺し屋・水谷豊は、雇い主のボスを父として、同性愛的に従順に慕いながらも、冷徹に指令を受けた殺しを重ねる役柄で登場したが、彼の思いは無残に散らされ、水谷豊は自分を使い捨て去ろうとしたボスを殺し、自分も自害して、ドラマは水谷の心情を一切明かさないまま終了する。
(ちなみに『傷だらけの天使』『俺たちの勲章』は、同じ日本テレビ・東宝製作だからか、ゲストの脇役が、被ってるパターンが少なくない。関根恵子大村千吉、蟹江敬三、平田昭彦、土屋嘉男、前田吟、等々)

 鹿児島ロケが続く『儀式の終りに(播磨幸治 山本迪夫)』
 結婚を数日後に控えた、幸せ直前の女性(真野響子)がいた。彼女は結婚相手(演ずるは『ミラーマン』(1971年)に変身する石田信之)とは相思相愛だったが、石田の家族からは反対され、一度も会わせてもらったことがない。そんなとき、ヤクザ同士の抗争で射殺事件を起こした見知らぬチンピラ・草野大悟(草野は劇団『六月劇場』で、優作や岸田森の盟友だった)が突如部屋へ逃げ込んできて、響子を脅し、そのまま強姦してしまう。
 幸せな結婚をなんとか成就させたいため、草野とのことをひた隠しにする響子だが、草野は響子に付きまとい続け、やがて鹿児島で優作と雅俊に追い詰められていく。

 しかし、優作と雅俊がみつけたのは、響子によって殺された草野の死体だった。
 鹿児島の教会では、響子と石田による二人だけの結婚式が行われている。式の後、優作と雅俊は新婚の二人の前で事件の真相を打ち明けるが、それを聞いた新郎の石田は、指輪を投げ捨てて「こんなことになる前に、どうして打ち明けなかったんだ! 分かっていればこんなこと(結婚式)しなかったのに!」と怒鳴り散らす。
 「あんた今!」雅俊が怒鳴る。「健やかなる時も病める時も支えあうって、神父の前で誓ったじゃないですか!」しかし、新郎は響子を見捨てて去っていく。
「私は、家族というものを知らなかったから、幸せな家族の作り方も知らなかった。どうしても、幸せな家族を作りたかったんです……」そう言って響子は泣き崩れるが、彼女を救うものはなにもなく話は終わる。


 子守歌 子守唄(桃井章 降旗康男)』は鞆ノ浦が舞台。
 鞆ノ浦は女郎の町の始祖としても知られているが、同時に安産祈願も多く存在している。優作と雅俊は、死刑確定のチンピラを追ってこの町に来るが、そのチンピラ(磯村健治)が、これがまた、狙いすぎたように、ファッションも髪型も、演技における表情の作り方も『傷だらけの天使』時代のショーケンを、真似てキャラが作られているのだ。
 その偽ショーケンチンピラに以前犯された女(服部妙子)は、そのチンピラを憎みつつも、優作と雅俊の捜査の手からは、必死に庇い続ける。実は彼女は、そのチンピラに犯されたときに妊娠している。彼女はただただ「生まれてくる子どもの父親」を守りたいだけなのだ。

 自分が生もうとする子どもを「父を知らない子」にしたくない。そんな思いだけで、偽ショーケンのチンピラを庇い続ける妙子。
 やがて、優作と雅俊が捜査に出向いた妙子の実家で、彼女の祖母がポツリという。
「オラも娘も、あの子も、父親の顔どころか名前も知らねぇ。この街の女は皆そうなんだ。そうやって生きていくんだ」
 クライマックスは、偽ショーケンを優作が、海の中でぶん殴り続けて逮捕するが、ラスト、妙子は流産を起こして救急車で運ばれていくシーンで終了。

 また『俺たちの勲章』最高傑作『海を撃った日(鎌田敏夫 出目昌伸)』では、当時女子高生に大人気だった不良青年風俳優、小野進也『ワイルド7』(1972年)主役の飛葉役)がゲスト。
 小野は麻薬組織の秘密を握るチンピラとして登場し、優作・雅俊コンビに護送されるが、その道中では、小野共々三人を抹殺しようとする組織の手が次々に伸び、三人とも満身創痍になって逃げ回る。やがて三人の間に奇妙な仲間意識が芽生え、一本のマッチで煙草に火をつけあい、互いを庇いながら、銃弾の雨を掻い潜り応戦し、必死に山を越えようとするようになる。
 しかし、結局小野は組織の手の者に撃たれてしまう。
 小野を護送する救急車が走り、その中で小野は息絶えるのだが、それは救急車が、民間病院を通り過ぎて警察病院へ向かったためであり、途中の民間病院へ速やかに運び込めば、助かったはずの命であった。
「おめぇ! なんで途中の病院で降ろさなかったんだよ!」
「だって命令ですから」と呟く救急隊をぶん殴りながら、優作が泣く。

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