零細プロダクションが戦争アニメを作るときに生じる矛盾“声”

そしてこのタイミングで、『月刊アニメージュ』徳間書店が、既出のアニメ特集ムック『ロマンアルバム』シリーズで、『ロマンアルバム エクストラ35 機動戦士ガンダム』を出版する。
このムックは、豊富な設定画、松崎健一氏によるSF考証解説、スタッフ、声優による座談会など完璧な内容で、そこでは富野由悠季監督と、声優の永井一郎氏の対談も収録されている。

ここで一つの矛盾なのだが、『機動戦士ガンダム』(1979年 以下『ガンダム』)は零細企業の安普請アニメであったことは間違いない。
しかし戦争という状況は、数えきれない多くの人々の群像を描かなければならない。
そうなると、登場するキャラクター全てに、ギャランティが別個に発生する声優を割り当てる、経済的余裕が当時の日本サンライズにはない。
なので、基本『ガンダム』では、その場限りのゲストキャラの多くは、レギュラー声優が兼任で務め、ホワイトベース側メインレギュラーのカイ・シデン役の古川登志夫氏なども、モビルアーマーパイロットのジオン兵の声を当てるなどして、総動員体制で演技部分を支えたのだが、その中で最もフル回転したのが、実はレギュラーとしてはナレーションという立ち位置でしかなった永井一郎氏であり、しかし逆に永井氏がテレビ版で当てた『ガンダム』キャラクターの数は二桁を優に超えているだろう。

永井氏は『ガンダム』の“声と演技”の部分で、製作会社経済事情とコンテンツ要求との間に生じた矛盾を解決してくれる、光が決して当たらない位置にいる要石であったのだ(この対談でも、富野氏は永井氏をして「永井一郎という、僕にとって声の教師」と呼んでいる)。それだけに、富野氏が対談相手として向き合うだけの『ガンダムの顔』という一面は、誰よりも強かったに違いない。

永井 ヘンなききかただけど、富野さんの作品て、いわゆるメカものっていったらいいのかな?

富野 いや、ロボットものですよ。

永井 オモチャものといったらいけない?

富野 オモチャでけっこうです。

永井 オモチャものだよね。ぼくはね、SFものだなんていいたくないんだ。

富野 そう、関係ないもの。

永井 ぼくはオモチャものとして富野さんの作品につき合ったつもりなんです。だけど、困っちゃうんだなァ、あなたのオモチャものはオモチャものを超えちゃってるんだもの。さっき、あなたが「ガンダム」のあと何つくったらいいかわからんとおっしゃったけど、わからない理由のひとつはそのへんにもあるんじゃない? つまリ、言いたいこと全部言っちゃうところがあるからじゃないですか?

富野 そう、「ガンダム」 で全部言っちゃったんです。だから恐いんです。途中で出し惜しみしようかなと思ったこともあったのですが、ウソはつきたくなかったんですよ。たとえばニュータイプばなしなんてのは、つけ足しだってことは皆さんから指摘されましたよね。ぼく自身構成論とか絵の問題を合わせてニュータイプばなしをいわせてもらえば、やはり不消化でした。でも、不消化かもしれないけど、そのまま若い人たちに伝えたほうが自由に考えてもらえるし、そのほうがぼくがニュ ータイプに託していいたかったこと――単に 人間対メカの戦いではなく、ヒトの問題なんだ――が浸透しやすいんじゃないか、と思ったんです。だから出し惜しみしなかったんです。

徳間書店『ロマンアルバム エクストラ35 機動戦士ガンダム』富野由悠季・永井一郎対談

ニュータイプとはなんだったのかという問題提起

“『機動戦士ガンダム』を観終わった時に、鮮烈に残る「ニュータイプ」とは、なんなのか。それは多分、『ガンダム』のテーマなのだろうけれど、超能力者ともエスパーとも違うというのであれば、アレはいったいなんだったのか”

“それ”は、男性キャラ同士のカップリングに熱を上げる女子も、メカとガンプラに熱中する男子も、当時『ガンダム』という作品が巻き起こしたムーブメントに興味を抱いて、少し覗いてみた誰もが感じる“核”であり、“そこ”が読み解けないと、『ガンダム』の魅力が分からない、子ども向けの、思春期の少年少女が熱狂しているテレビ漫画一つ理解できない「馬鹿な大人よネェ」扱いをされるというプレッシャーを、『ガンダム』は「80年代初頭を生きる大人社会」へ与えた。

ヤマトブームの頃はまだ、ヤマトが謳い上げた「愛」だの「正義」だの「漢のロマン」だのは、あぁ確かにそういった大義名分と概念は、子どもは一時期酔いしれるかもねぇと割り切れた大人社会が、「ニュータイプ」という言葉と概念だけには、踏みとどまって戸惑い続けるしかなかった。“それ”はアニメジャーナリズムメディアも同じであり、やがて大人社会は『ガンダム』の数年後に、実社会で「新人類」という言葉を生み出すのである。

徳間書店の『ロマンアルバム エクストラ35 機動戦士ガンダム』は、2003年に復刻版が出版されたが、そこではかつて出版されたときの広告の部分が(当然の処置だが)白紙ページにすり替えられていたが、元版で掲載されていた、バンダイのガンダムプラモデルの広告では、この時点で既に「映画化決定」の文字が躍っていた。
「『ガンダム』の映画化」がとうとう決まったと、そのムックを手にしたファンの誰もが心を躍らせた。

アムロ「今度こそ、シャアの動きに追いついてみせる。これで、何度目なんだ!? アムロ!」
シャア「とどめだ!」
コム「うわぁーっ!!」

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