金城氏は、この作品の準備稿で、かつて人類の代表として怪獣と向き合い、英知と科学で立ち向かった一人の老科学者に、怪獣との閉じた関係を築かせたのである。

そこで、一ノ谷博士と怪獣との間に、改めて閉じた関係を構築させたということは、『ガラダマ』や『宇宙からの贈りもの』といった作品群が、一ノ谷という一人の科学者が、怪獣と閉じた関係を築くまでのプロセスだったと、後付でそういう図式を成立させる目的があったことが推察できる。

それは、まさに『ウルトラQ』と『ウルトラマン』が、金城氏にとって(だけではないが)地続きであったという証明でもあるが、そこで金城氏は、本話で一ノ谷博士と怪獣の閉じた関係を完成させることで、自身が紡いできた『ウルトラQ』の世界を完結させたのではないだろうか。

その『ウルトラQ』完結という要素こそが、金城氏がこの、円谷を怪獣を代表する怪獣王・ゴジラが登場するという、記念すべき作品に向けて用意したテーマだったのだ。

さて、その怪獣王・ゴジラの変則的な客演であるが、ここからは少し視点を変えて、そのゴジラの転生ともいえる、本話に登場した怪獣ジラースについて語ってみたい。

ジラースはもちろん、東宝が製作していた怪獣映画のゴジラを、小改造して作り上げた怪獣ではあるが、その基となったゴジラのスーツに関しては、今では『モスラ対ゴジラ』(1964年)の体に、『怪獣大戦争』(1965年)の頭部を継ぎ足したスーツであるという定説がある。

ウルトラシリーズで、ゴジラスーツ改修怪獣というと他にすぐ思いつくのが、前作『ウルトラQ』の放映第1話『ゴメスを倒せ!』に登場したゴメスであるが、そのゴメスという怪獣が「ゴジラに角や鱗をたくさん付けて、ゴジラに見えないように懸命に努力したのにもかかわらず、結局ゴジラにしか見えなかった怪獣」であるのに対して、ジラースという怪獣は「ゴジラの色を変えて襟巻きを付けただけで(しかもその唯一のゴジラとの差別化記号だった襟巻きすら、ウルトラマンとの戦闘中に、意図的に剥がされるのである)ゴジラのまま威風堂々と活躍する怪獣」なのである。

筆者がまだ中学生だったころ、とある特撮ファンサークルの代表として、円谷プロを訪れたことがあり、そのとき応対してくださった、円谷プロの(当時の)営業責任者・梅本正明氏に、このジラースの由来についていろいろ訪ねたところ「円谷のオヤジさん(英二監督)がどうしても、ゴジラとウルトラマンを対決させたかった」と仰っていた。

確かに当時のウルトラ怪獣は、パゴス・ラルゲユゥスや怪竜、トドラなど、東宝怪獣のスーツを改修して使用した例は少なくなかったが、ゴジラに関しては、既にゴメスの先例もあったわけでもあり、むしろジラースに関しては、確信犯的にゴジラのままで、ウルトラマンと闘わせたかった意図がうかがえる。

実際、ジラース造形に関しては、首と胴体の繋ぎ合わせだけではなく、わざわざ瞳の色まで変えてあるわけなのだから(瞳の色に関しては、眼球の内部構造を一度ばらさないと塗り替えられない)そこでゴジラと意匠を変えようと思うのであれば、いくらでも手立てはあったはずなのである。

では、夢の対決、怪獣王ゴジラ対無敵のヒーロー・ウルトラマンを飾った、ここに登場するジラースなる存在の(ゴジラと明確に異なる)ウルトラ怪獣としての「個」が、ゴジラそのままでしかないジラースのどこに存在していたかといえば、それはまさに、その色であったのではないかと筆者は思うのだ。

「それは当たり前だろう、そもそもゴジラとジラースは、襟巻き以外は色しか違わないのだから、ジラースの個性は色にあって当然だろう」皆さんはひょっとするとそう思われるかもしれないが、実はジラースという怪獣の個性がその色にあるというのは、『ウルトラマン』における初期の怪獣創造にとっては大事なポイントになるのだ。

『ウルトラマン』最初期に登場する怪獣群には、実はカラーリング面においては明確な統一要素が存在している。それは、そこで登場した怪獣のほとんどのカラーリングに、黄色が用いられているという事実である。

製作第1話のバルタン星人、放映第1話のベムラーに、その法則が当てはまらないために見落としがちな共通点ではあるのだが、ネロンガの背中、ラゴンのひれ、グリーンモンスの口、ゲスラの棘、レッドキングの体色、ドドンゴやペスターのメインカラー、そしてこのジラースと、初期の怪獣のほとんどには、必ずどこかに記号として「黄色」が配色されているのである。

これはまず、一つに当然『ウルトラマン』がカラー作品であったことから、カラー視聴を意識して施された要素だったのだろうと推測できる。銀と赤のヒーロー・ウルトラマンに対して、怪獣側にもどこかでカラーリングに統一性をもたそうという意図があり、そこで警戒色でもある黄色を用いたのではないかと思われる。

このカラーリングポリシーは、シリーズ中盤以降、より独創的で、より既存にはないタイプの怪獣を生み出そうという視点から、「警戒色としての黄色」というキィワードは消えていくのではあるが、その代わり、ガヴァドンA(白)やブルトン(心臓の青と赤)、アボラス(青)とバニラ(赤)の対決図式、ゴルドンの金色などで、「怪獣の色」は強く打ち出され続けていくことになるのだ。

また、メフィラス星人やゼットンに見られる、「ウルトラマン(銀と赤)へのアンチテーゼとしての銀と黒」という彩色ポリシーがみられるなどの形で、この時期の怪獣にとって色という要素が、非常に強い意味を持っていたのは確かである。

第二期以降世代のファンの方々には、伝わらない感覚なのかもしれないが、この時期、日本文化では東京オリンピックを契機に、爆発的にテレビが普及して、さらにカラー化が進んだ時代であった。

テレビシステムの変異は、80年代の音声ステレオ化や、2011年に施行された地上デジタル波放送などが他にもあるが、少なくともこの時期のカラー放送移行は、テレビを観る側、送る側にとって一大イベントであったことは間違いないのだ。

『ウルトラマン』はその企画初期からカラー放送であることが強調されて、その中で様々な試行錯誤や挑戦が行われていたことは、番組初期企画タイトルが、主人公ヒーローの体色からとって、『レッドマン』とされていたことからも伺えるだろう。

まさにそのままずばり「カラータイマー」というアイテムが、ウルトラマンのアイディンティティを支えていたのも、カラー放送を多分に意識してのことであった。

その中で、ともすれば茶系などの地味な色で印象で統一されかねない、怪獣という架空の生物をカラーで放送するにあたって、そこに警戒色の黄色をメインイメージカラーに据えたとしても、何も不思議はないのである。

怪獣の黄色は『ウルトラマン』に登場する怪獣のアイディンティティ。

そう考えたとき、ジラースの体色が黄色に塗り替えられたのは、まさに東宝怪獣から円谷ウルトラ怪獣へと転生するための、儀式のようなものであったのだろう。

『ウルトラマン』でウルトラシリーズ第1作『ウルトラQ』の最終総括を行う。 それは金城哲夫氏にとって、固めの杯(黄色塗装)までしてくれて、ウルトラ怪獣に転生してくれたゴジラへの、精一杯のもてなし方だったのかもしれない。

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