前回は『犯罪・刑事ドラマの50年を一気に駆け抜ける!(70年代をナメるなよ)』Part12


 そうだ。やっぱり今度も「例のアレ」であったのだ(笑)
 「うちもアレをやりたい」と、どの部署の誰が言い出したのか、誰がきっかけで発起人なのかは、定かではないが、毎度おなじみ、いつもの「東映とテレビ朝日」コンビが、『刑事貴族』シリーズにおける水谷豊(と、その脇で巧みに絡んでいた寺脇康文)による刑事ドラマを、そのままの味わいで、うちでもやってしまおうと言い出したのだ(笑)

 一応表向きの理由としては『土曜ワイド劇場』枠で、水谷豊が主演していた『探偵事務所』シリーズの原作が無くなったから(Wikipediaより)」という、もっともらしい名目がついてはいるが、二時間サスペンスにおける原作なんて存在は、最初から在って無きが如し。小説家の名前貸しでしかないことは、以前筆者が自身の助監督時代の体験として、思い知ったことがある。
 まぁ理由はなんだっていい。ただただ「やりたかった」だけなのだ、東映とテレビ朝日は。
 自分達で『刑事貴族』を。

 スタッフには、演出メインに、若い頃から10年以上、いわゆるピンク映画監督を勤め続け、ようやく1982年に、山田辰夫の「イージーライダーだよ!」の名台詞で印象深かった『オン・ザ・ロード』という一般映画で脚本・監督を担った和泉聖治を配置。
 脚本に輿水泰弘を迎え、まずは土曜ワイド劇場枠で『相棒 警視庁ふたりだけの特命係』(2000年~2001年)をオンエアしてみる。
 それが、現在もなおテレビ朝日で第絶賛放映が継続されていて、映画版も次々に送り出している、21世紀の刑事ドラマ王『相棒』(2002年~)の始まりの瞬間だったのである。

ウェットとヒューマニズムと、クレバーとマッドが合わさった『相棒』

 既に『刑事貴族』シリーズで練り上げられていた「自分のキャラと犯罪との距離感」を上手く操る水谷の演技プランニング力は、やはり『刑事貴族』シリーズで息が合っていた、寺脇康文とのコンビネーションも板に着き、単発スペシャルドラマだった『相棒』を、連続ドラマへと躍進させた。


 文芸には、櫻井武晴や、後に『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)で日本アカデミー賞脚本賞を受賞することになる古沢良太や、『ウルトラマンティガ』(1996年)でデビューした俊才・太田愛を加え、演出では、「こういう作品でこの人を要石に置かなくてどうする」と言わんばかりの長谷部安春(あぁ筆者が今回の一連の記事で、この人の名前を書くのは、もうこれで、いったい何十回目なんだろう(笑))を筆頭に、櫻井と同じく『科捜研の女』(1999年~)からスライドの橋本一の他、まさに『相棒』が生み出した才能といっても過言ではない、ハイセンスなカッティングの近藤俊明などが名前を連ねる。

 もうそこには「見慣れたいつもの名前」は少なくなってはきたものの、明暗両方の意味で、いわゆる「刑事ドラマ魂」が不変・不滅であることを『相棒』の成功が証明した。
 我々から見れば『相棒』は、昔ながらの東映刑事ドラマの典型であり、今回の旅で振り返った、幾多の作品達と肩を並べても遜色の無い佳作であるが、そんな「テレビドラマの犯罪と刑事達」の歴史を知らない若い人からしてみると、これがまた、随分と新鮮に写るというのだから、文化史というのは本当に面白い。

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