設定が先か、アリモノが先か

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例えば(それこそ筆者自身がそうであるが)熱狂的なウルトラシリーズマニアがいたとして、『ウルトラセブン』(1967年)最終回は、悲恋物としても感動的な終わり方だった訳だが、45年も経ってから「実はウルトラセブンには、既に息子がいたのです」とか、後付けでいきなり設定を追加されて、そこで若いファンが「セブンが地球にいた頃は、既に息子のウルトラマンゼロがいたわけで、つまりセブンは既に妻帯者だった。地球でのアンヌとの恋愛は、実際はセブンの不倫だったんだ!」と声高に叫ばれても、これはもう、合点も納得もいかないというしかない気持ちにさせられたものである。
それはあくまで「権利を持っている会社」による「目先の利益のため」に「長年愛して親しんできた作品内史実」を、塗り替えられたという構図であるが、同じような事を、OVA版『ワイルド7』スタッフはやってしまったのである。

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原因を先に暴いてしまえば、前編で解説した「リアルなバイク音」の問題である。
このOVAでは「リアルなバイクのエキゾーストノート」を再現することを売りにして、某バイク旧車クラブに協力を取り付け、ワイルド7メンバーが乗るバイクそれぞれ個別の、バイク固有のエンジン音をSEとして取り入れたというのが制作発表当時の売りであった。

なるほど、言われれば確かに飛葉ちゃんのバイクはちゃんとCB750Kの音がするし、ヘボピーや世界のバイクが走る時はハーレー独特の音がする。
これは確かに売り要素ではあるし、映像化ならではの嬉しいプラスアルファである。

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漫画ブーム時に売られていた、アオシマのプラモデルは漫画版を正確に再現

しかし?
しかし、そこで用意されているバイクのエンジン音は、あくまで「その旧車クラブの協力を得て、現状で手に入る音」しか存在しない。
70年代の望月先生が、後のアニメ化を見越してバイクを決めていた訳でもない。
そしてその旧車クラブとて「『ワイルド7』で登場しているバイクを率先して集めよう」と、そういうモチベーションで活動している訳でも、これまたありえないのである。

そうなると要するに「その『旧車クラブ』が保有しているバイクの音」しか使えない。逆を言うと、旧車クラブが保有しているバイクしか、アニメに出せないという、謎で不可解で納得し難い、不条理な逆転劇が出て来てしまうのである。
もちろんこの文章は、その旧車クラブを批判する内容ではない。そもそも旧車クラブは趣味の集団であって「アニメやドラマへ旧型バイクの音源を、提供する為に設立された営利集団」ではないのである。「協力してくれ」と頼まれたからこそできる範囲で協力されたのだろうし、無い物を差し出すことは、これは神様であっても無理な所業である。

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さらにそれが業務ではなく趣味であるならなおの事、「いつか『ワイルド7』が、アニメ化され音源が要求される事を見越して」原作登場バイクを全て保全しておくことなど、予知能力でもない限りは不可能なのだから、これは旧車クラブの皆様には責任はない。

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むしろ、そこで問われるべきは、一番迂闊で粗忽な「ディティール主義」で「漫画に音や画を合わせるのではなく、音を根拠に設定を変えてしまった」OVA版スタッフの、その罪の重さではないだろうか。
現在ネットや公式資料で見られるアニメ版(そしてそれは漫画版も含む)『ワイルド7』公式設定では、メンバー全員のバイクの車種が明記されているが、その中でチャーシューのバイクは、SUZUKI GT380と明記されている。

しかし、筆者など「発酵ワイルドオタク」から言わせると、アニメ化された際にその設定を聞いた時は、即座に「嘘だ!」と声に出してしまった程だ。
筆者達昔からのワイルド7マニアの間では、チャーシューのバイクは特定されていて、その特徴的なボクサーエンジンの形状から、BMWR50Sだと割り出されていた。これはエンジン部分の形状が独特なので、バイクマニア初心者でもすぐ特定できる。

しかも、その説を裏付ける根拠が三つもある。

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