そんな「今が旬の国民的スター俳優」を二人揃えて企画された『アイアンキング』。
 内容的には、国家警察機構の工作員でもある、アウトローヒーロー静弦太郎と、とぼけた三枚目でありながら、巨大ロボット・アイアンキングに変身する霧島五郎の活躍を、明快にさわやかに、スピーディに描く正統派ヒーロー物……と思われがちだが、一皮めくると反骨反体制佐々木守氏の政治的側面がぐらぐら煮えたぎっている傑作(笑) ビジュアル的には、ウルトラマン的巨大特撮ヒーローと、仮面ライダー的等身大アクションや忍者物の殺陣や描写、西部劇風ファッション等々、様々な要素を取り入れつつも、『仮面ライダー』(1971年)ではショッカーにあたる、いわゆる悪の組織「不知火一族」は「かつて朝鮮半島から侵略してきた大和朝廷騎馬民族に滅ぼされた、日本原住民族の末裔」というシャープな設定。

「僕が『ハイジ(引用者註・『アルプスの少女ハイジ』(1974年)をやった時は、ハイジが都会の中でアルプスの自然を強く求めれば求めるほど周りとズレていくという部分を強く担当したので、アルプスの生活部分は、あまり書いていないんですよ。僕は『風の谷のナウシカ』(1984年・宮崎駿監督)なんかは、あまり好きじゃないんです。あれは要するに、『風の谷』の人々が自然と調和して 平和に仲良く暮らしているというお話でしょう? あぁいう物を見せられても『ハイその通りでございます』としか言えないんですよ。 だけど現代の日本で、本当に自然と調和して生きていこうという人間が存在しようと思ったら、それは現代社会の体制やシステムから見た時の『悪者』としてしか現れようがないと思うんです。『アイアンキング』で日本原住民を悪者にしたのも、そういうことなんです」

『夕焼けTV番長』「佐々木守インタビュー」岩佐陽一

 その不知火一族が毎回、テロ工作を襲うために身を隠す姿は「先祖代々を拝み続ける老婆」「善良な市長」「お寺の僧侶」「漁村の漁師」 そして「警察官」「海上自衛隊員」と、どれもこれも「正しい日本人」という念の入れよう(笑) それに対して主人公の弦太郎の根幹設定は、孤児として生まれ、国家警察機構(要するに公安)によって戦闘工作員としてのみ育てられ、佐々木守氏作詞のエンディングによれば「しあわせ」「よろこび」「さびしさ」を知らずに育ってきた男。
 そんな「人工的に作られたアウトロー」だからかゆえか、弦太郎は子ども番組の主人公にも拘らず平気で「大の虫を活かすためなら小の虫は殺す」と言い「俺は明日、死ぬかもしれない男だ」とも言い放ち、旅先で知り合った少年に「どこへいくの?」と聞かれた時も、明るく笑顔で「戦争さ」と言い切る男。

 もう一人の主人公・アイアンキングに変身する霧島五郎は、こちらは平凡な人生と、登山と言う趣味があっただけの青年が、その山で命を落として、国家の手で国家の為に戦う戦闘用ロボットとして蘇ったという設定がある。その五郎にはロボットという自覚はなく、弦太郎が見捨てる女性を助けに行く時にも「俺には人間らしい血が流れてるんだよ」と強がってみせる優しい性格の持ち主。
 『アイアンキング』は「そんな二人」が「国家の為の命を賭けた二人だけの戦い」の中で、それぞれが「まっとうな人間」になっていく、そんな物語なのである。

 かつて『おくさまは18歳』(1970年)で佐々木守氏は、学園という「安保闘争以降の管理教育の籠の中」に、変革させられつつあった場を徹底的に皮肉った。
 「そこ」で徹底的なドタバタコメディを延々展開させた挙句、最終回で大団円にすらせずに、ただ最終回にスタッフ・キャストに配布された台本の最後に「ほんとうによく走りました。 一年間、みなさん、お疲れさまでした」と書いたという。
 それはテレビの現場という代物が、そこで集められた面子の抱く一体感や、馴れ合い・共犯意識のような物が育っていくと、脚本の文芸性を越えて、現場全体がエスカレートしていくのだという法則性を、当時大人気脚本家だった佐々木氏は、知っていたからなのだろう。
 そうして全登場人物が走り続けた『おくさまは18歳』は、出演者全員のライブ感を反映して、見事なスラップスティックドラマとして、今なおドラマ史に残る金字塔作品になったが、この『アイアンキング』も同じように、石橋・浜田コンビの掛け合い漫才が加速していく。

 序盤の『アイアンキング』では、その石橋・浜田コンビに紅一点として、森川(真樹)千恵子嬢が、レギュラー・高村ゆき子役で旅を共にしていた。彼女の役は不知火一族のスパイでありながら、石橋・浜田コンビに共鳴していくという、佐々木守式ならではのメロドラマ的展開も用意されていたのだが、撮影中にトラブルがあり、事務所要望などもあって途中降板せざるを得なくなり(当初は彼女専用の不知火ロボもデザインされていたが)急遽降板に相成った。
 森川千恵子嬢の降板というと、やはりどうしても『仮面ライダー』13話までの、重要なヒロインレギュラー役だった緑川ルリ子というキャラの降板も思い出されるが、あちらは路線変更に伴うリストラ故の降板であったので今回とは事情が違う。しかし、森川千恵子嬢に関しては子ども番組に関しては不遇な去り方をする印象が強い。

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