ガンプラ! あの熱きガンダムブーム。あの時代を生きた男子であれば、誰もが胸高鳴り、玩具屋や文房具屋を探し求め走ったガンプラを、メカ単位での紹介をする大好評連載。

ウェイブ・ライダー、宇宙を駆ける!

私、市川大河が、書評サイトシミルボンで連載している、 『機動戦士ガンダムを読む!』での、 再現画像で使用しているガンプラを、 古い物から最新の物まで片っ端から紹介していこうというテーマのこの記事。
今回紹介するのは、皆さんお待ちかね。今となっては1/144で何度キット化されているか分からない、『機動戦士Zガンダム』(1985年)主役のゼータガンダムの、最初のHGUC版のご紹介です!

Zガンダム 1/144 HGUC 041 2003年10月 1600円(機動戦士Zガンダム)

ゼータガンダム、初めてのHGUC化ということもあり、よりスタンダードにゼータガンダムの魅力を描き表したボックスアート

「歴代ガンダムシリーズのモビル・スーツを1/144スケールで、アニメ設定を尊重したアレンジでハイグレードに模型化する」をコンセプトに抱えたHGUCというブランドが立ち上がって4年。
百式、キュベレイ、ガンダムMK-Ⅱ、ハイザックと、目ぼしく華やかなキャラや、脇を固めるバイプレイヤーなども、次々商品化されてきたHGUC『Zガンダム』枠において、ようやく「真の主役」ゼータガンダムが商品化されることが決まった時に流れた第一報を受け取った心境は「とうとうきたか」であった。

初HGUC化のゼータガンダム

既にMG、HGUCを中心としたガンプラ市場は「カトキハジメアレンジ至上主義」「アクションフィギュア視点評価主義」「変形・ギミック再現最優先主義」等々の価値観が乱立しあった混沌の中にあり、それら全ての崇拝要素を併せ持つ、しかも主役メカのゼータガンダムに対しての注目度はことさらだった。

ゼータガンダムの1/144キット化は、この連載でも取り上げてきたように、まずは1985年8月に、『機動戦士Zガンダム』1/144キットとしてはNo.13に当たる商品数目で500円で発売。その後1990年5月にHGゼータガンダムが発売されて以降、この時のHGUC版は13年ぶりのキット化になった。

『Zガンダム』放映当時のメカ設定から。ゼータガンダムの変形プロセスの解説図

上の図は、アニメ版が制作された時に描き起こされた設定画で、ゼータガンダムのウェイブ・ライダーへの変形過程を解説している。
この時点で、この変形を三次元のプラスチック素材で再現するにはかなり不安が残ることは分っていたが、放映当時は見事に「無理を通して道理を引っ込めた」1/100ゼータガンダムが文字通り(シールドの位置修正まで含めて)「完全変形」で再現してみせたが、その結果はモビル・スーツ形態にしわ寄せが全て集まり、ゼータガンダム時の姿は惨憺たる有様になっていた。

アニメメカの変形のアルアルで言えば、ゼータガンダムの変形には三次元での無理があり、頭部と腕部を同時に腹部内に収納しつつ、背部バインダーが回転しながら180度展開してくるアクロバティックな変形は、挑戦しても誰も喜ばない可能性が高い。
つまり、モビル・スーツ時とウェイブ・ライダー時、どちらかが少しでも完成形が悪いと怒るファンがいる。変形システムを基設定から変更させると、これまた怒る原作原理主義ファンがいる。それらのハードルを越えて完全変形を成し遂げても、アクションフィギュアとしての関節可動範囲や可動強度などに不安が残れば怒るファンもいる。そしてそして、それら全てをクリアした結果、価格が他のHGUCと比較して倍差がつくほど高額化すれば、そこで怒るファンも出てくる。
これでは八方塞がりで、せっかくのキラーアイテムの主役ガンダムを、商品化しようにも出来ないというジレンマで挟み込まれてしまう。それがながらくバンダイにはあった。

今の目で見ても「アニメ設定版に一番近い1/144ゼータガンダム」は、これではないかというファンも多い

そして、HGUCシリーズも、徐々に技術とマテリアルの進化により、MGとは違った方向で「アニメ版のイメージを残して最低限度のリファインでHGキット化する」フォーマットを蓄え続けてきた。
その中で「HGUC」の「ゼータガンダム」はどうあるべきか。どの道を選択すべきか。どのファンを満足させるべきか。
悩んだバンダイは英断を下した。「変形ギミックを排除する」である。
しかしそれは「変形ギミックを排除して、モビル・スーツ形態でのクオリティのみに特化する」という意味ではなかった。それでは旧1/144と変わらなくなってしまう。
「モビル・スーツ形態」「フルアクション可動」「プロポーション」「変形ギミック」「ウェイブ・ライダー形態」これら5つの要素から、変形ギミックだけを排除して、モビル・スーツ形態とウェイブ・ライダー形態は、大胆な差し替えで、半分ほどのパーツを共有しあいながらも、ゼータガンダム時の残り半分近くのパーツを余剰させて、別個のコア・パーツを用いることで、ウェイブ・ライダー時のシルエットとプロポーションを維持し、両立させるというコロンブスの卵的発想を得たのだ。

「飛行機に変形する人型ロボット」という設定で、「変形する」部分を逆に取り除くことで、他の要素全てが一定のクオリティを確保できる。
本来一番の肝である「変形」は、商品カテゴリとしてワンランク上のMGに任せておけばいいという(当時の)感覚は間違っていなかったことは、その後RGゼータガンダムが功罪合わせた形で立証してみせた。

HGUC版ゼータガンダムのサイドビュー
完成したHGUC版ゼータガンダムのバックビュー

素の選択肢であれば、リファインデザインも設計も人型ロボットの姿と飛行機の姿を個別に見つめて整合性をとればいいだけであり、その間に挟まる複雑怪奇なパズルのような変形と、それを可能にする構造に配慮するコストと技術力を、ゼータガンダム時とウェイブ・ライダー時の完成度に注ぎ込めばよい。
「それなりのリファインデザインで、ロボット形態と飛行機形態を、実際のモデルで変形可能にするゼータガンダム」は、既にMGシリーズで1996年に先行して発売されていたし、「1/144のゼータガンダムで変形を可能にさせることがどれだけ困難か」は、ガンプラユーザーも旧HG ゼータガンダム等で熟知していたので「なまじ変形まで目指されて、あれもこれもで、中途半端な出来になるよりも」と「なまじこのスケールで完全変形まで目指されて、価格が他のキットの数倍に跳ね上がるよりも」で、この「完全差し替え、組み換え2形態再現方式」は、ファンからは歓迎された。

この「差し替え」採用が英断であったことは、このキットから14年経って、「HGUC -GUNPLA EVOLUTION PROJECT」としてリメイクされたゼータガンダム(以下「EVOL版」)が、さまざまに14年の技術の蓄積と進歩を随所に盛り込みながらも、ウェイブ・ライダーへの変形に関しては、今回紹介する初期HGUC版と、ほぼ同じ差し替えシステムを採用していることからも明らかであろう。

一つだけ残念なのは、このHGUC版ゼータガンダムの新発売を境に、MiddleEdgeでの連載でも紹介した旧HG ゼータガンダムが再販されることはなくなり、ほぼ事実上絶版になってしまったことだろう。形状が違うとはいえ、1/144で変形プロセスを再現したゼータガンダムは、2012年のRG版まで待たねばならず、惜しいキットがガンプラ史から消えていったものだと個人的には思っている。

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事