この辺でようやく今回紹介するキットの話に入ろう。
このキットはHGUC 15と、初期の商品であり、まだ合わせ目も色分けも可動も、イマドキの最新作には遠く及ばないレベルに終始しているが、バウの場合はメカ人気も良くも悪くも結果的に本編での扱いのせいで平凡に落ち着いており「合体変形する1/144バウ」も、『ガンダムZZ』本編放映時にリアルタイムで発売され、それは変形とプロポーションを優先したためにモビル・スーツ時の可動がダメ過ぎた代物だったが、一応発売されていた実績を持っている。
「『ガンダムZZ』時に一度商品化されたが、当時キットはダメだったので、HGUCでリファインする」と言えば聞こえは良いが、その理屈だとまずガルスJとかR・ジャジャが候補に挙がるべきなのだが、なぜか「このタイミング」で「この機体」というのは謎が詰まっていた。

放映当時キットは本当に、プロポーションと変形は良いのだが、アクションフィギュアとしての可動は(R・ジャジャほど酷くはないが)落第点ではあったので、バウ好きな人にはありがたいリファイン版の発売だったとは思われる。
そんなHGUC版のキットをチェックしていこう。

パーツの色分け、立体構造は、基本的には整えられている。
合わせ目が目立つ位置にモナカ割で出来てしまうのも、細部まで色分けが出来ていないのも、HGUC黎明期ゆえに仕方がない。
合体変形も、そこは出渕マジックで、2機に分離した状態はカッコいい戦闘機にそれぞれ見えるのだが、実際の合体変形システムは驚くほど単純構造で成り立っているので、当時の旧キットもHGUC版も、そこはなにも問題がない。
では、と、当時キットで批判が集中した可動面をチェックしていこう。

旧キットでは、上半身から突出したストッパーによって回転可動が制限されていた肩も、HGUC版では問題なく回転する。腕は90度行かないぐらい。その分手首がデザインとの兼ね合いでさらに内側に曲げられるので、ライフルなどの構え角度は160度近くまで折り畳まれてくれる。
肩は、アーマーを若干反らし気味にすれば水平まで上がるといった感じか。

変形する時にサイドアーマーが展開する機能も手伝って、両側への開脚性能は充分ある。イマドキのガンプラだと股が地に着くまで開脚出来てナンボ的な価値観があるが、皆本当にそんなポーズで飾りたいの?と、大河さんなどは穿ってしまうのである。

この時期のHGUCで、片膝立ちまで出来れば優秀な部類だろう。もっとも、この優秀さも「デザインの勝利」的な要素が大きいが。

この、背部の2枚のバインダーを見て、気付かされることもある。
ガンプラファンの皆さん、このバインダーの形状に既視感はないだろうか?
そう「百式背部のバインダー」と瓜二つなのである。
確かに『Zガンダム』で登場した百式は、非変形型のモビル・スーツではあるが、デザインした永野護氏は、当初は飛行形態に変形する主役メカのゼータガンダムのデザインを任されていた経緯があり、そこでの「永野版ゼータガンダム」は、今では古本を探すしかないが、『Zガンダム』放映当時のハードカバー版ノベライズ『機動戦士Zガンダム』の表紙で胸部までは見えていたりする(その後、そのデザインをして後付けで「〇〇ガンダム」とか名前が付けられたらしいが、筆者的にはその後付け設定に興味はない)。
その流れ故か、百式も当初は可変型モビル・スーツとしてデザインされていたといわれ、その前提で考えると、百式の背部の2枚の巨大なバインダーは、変形したとしたらもちろん主翼として。まさにこのバウで、出渕氏が「こう使うんだよね」と用いた構造で使われるべきものだったのではないか?
そう考えると、出渕氏はひょっとすると、このバウというデザインで、「出渕式」と「永野式」二つのゼータガンダムを、ネオジオンの敵モビル・スーツとしてテレビ画面に登場させることで、鎮魂したのかもしれない。

オプション一覧。ライフル、シールド、サーベルの3種というのはスタンダードだが、サーベルのクリアパーツがしなっているのが特徴。

 

HGUCの一時期だけに見られた商品仕様だが、実体を持たない「ビームの束」の、振り下ろすアクションを意識したパーツとしては、イマドキのフィギュア界での「エフェクトパーツ」的でもありなかなか革新的な試みだったが、ビーム・サーベルはビーム・サーベルとして動きがない物の方が普遍的だという結論が指示されたのか、今は殆どこの仕様はのこされていない。

HGUCでも、ABS樹脂やKPSなど、素材による栄枯盛衰が後を絶たないが、こうしたクリアパーツやシール素材の運用も時代とともに変節していく。
イマドキ、というか一時期以降のHGUCでは、モノアイは可動式のクリアパーツで、モノアイ自体を塗装するかシールを貼るかはユーザー単位で選べたものだが、このHGUCバウの場合は、モノアイレールはあるがモノアイのモールドは無く、代わりにモノアイの位置が中心、左寄り、右寄りの三種類のモノアイレール用のシールが用意されていて、ユーザーがその中からどれかを選んで頭部パーツに貼り込む仕様で、これも一時的なHGUC「迷いの時代」の象徴とも言えた。

この、モノアイの位置をシールで選択できる仕様というのも珍しいなりに苦肉の策のアイディアではあったが、その分「もっと他にシール補完すべき箇所」がオミットされてしまった残念さは否めない。

最近のRE1/100ではもちろん色分けされているが、この頃のHGUC規格だと、シールドは5連装のメガ粒子砲口の赤も、ジオンマークの黄色も、ディテールこそあれシール補完もされていない。
確かに立体モールドにシール補完をするのは両刀の剣ではあるのだが、グレー一色のシールドでは、『逆襲のシャア』旧キット時代に戻ったレベルである。
ちなみに、ライフルもグレー一色であるが、こちらはパイプなどの一部塗装だけで済むので、他のHGUCキットと比較しても、この時期であればあまり技術不足は目立たないレベルに終始している。

では、このキット(というかこのモビル・スーツ)のメインギミックである、変形分離機構を順番に見ていこう。

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